青い高架線

2.賭け次第

──────

交渉がおわった直後、私は勢いよく店を飛び出した。

「待て!」

声を張り上げながら、私はクワイ=ガンの背中を追った。タトゥイーンの熱い日差しの下は、少し走っただけで汗を滲ませる。

しかし、男は涼しい顔で私に振り向いた。

立ち止まり、息を整える間も惜しんで問いかける。

「どうしてワトーにあんな無茶な条件を?それに、私の父に共和国クレジットまで渡すつもりだなんて。お前達の目的は何だ?」

砂埃の舞う通りで、クワイ=ガンは眉ひとつ動かさず、しばらく私を見つめた。

「君は警戒心が強いな。

──昨夜アナキンの家に泊めてもらった時に聞いたよ。君がアナキンの言っていた『大切な幼馴染』か」

「……アナキンに他に幼馴染がいなければ、多分そうだな」

私は静かに答えた。私は問いかけに答えてもらえなかったことに顔をしかめたが、クワイ=ガンは明らかにこちらの棘のある空気を気にも留めなかった。

「なら、信じてほしい。レースに勝った暁には、私はアナキンも助けるつもりだ」

「何?」

「それが一つの狙いでもあった。そして……もうひとつ。ワトーの店で君と会って、君についてもゆっくり話したかった。レースの後でもいいかとは思っていたんだが」

彼は少し歩を進め、私との距離を縮める。それから、静かに私を見下ろした。

「私がワトーと交渉しているとき、君はしきりに私の言葉に嘘がないか確認していた。私の心を読もうとしていたな」

どきりと心臓が高鳴った。今までバレたことがなかったのに、何故?この男は何者なのか、もしかしてこの力について知っているのか、たくさんの問いが自分の中で溢れた。

「フォースユーザーは他人の心を読むことができる。いつから使える?誰が君を訓練した?」

「フォース……?」

私は怪訝に聞き返す。昔から、なんとなく使える力があった。心を読むとか、ものを浮かせたり、押しつぶしたり、引き寄せたり。誰に教わったわけでもなかった。

──その力に、名前があったなんて。


 クワイ=ガンは私をまっすぐ見ていた。しかし私の動揺を見て、やがて掌を掲げる。

それから、小石をふわりと浮かせて見せた。

「あ……!」

おもわず口をあんぐり開ける。まさに自分と同じ力だったから。

「アナキンは少し未来が見えるようだが、君も心が読める、フォースを使っていろんなことができる……そうなんだろう?#NAME1#、これらは全部同じ力だ。しかも、特別な」

言葉に詰まって、しばらく黙る。やっと出たのはひとことだけだった。

「……そう、なのか……」

思わずきゅっと拳を握ってうつむく。彼が石をすっと地面に戻し、優しく尋ねた。

「いつから?」

「……数年前。父と……フェンロと喧嘩して、かっとなって言い返したときに、窓が割れたんだ。フェンロは盗賊のしわざだとかんちがいして……だから、なにも私に問い詰めなかったけど……。でも、それからときどき」

私は誰にも話したことがなかったことを、知り合ったばかりの大人に、自分でも不思議なくらいにすらすらと話していた。

「どうやって制御を覚えた?」

「かっとなると、勝手に攻撃的に作用する。落ち着いてると……結構うまく使える。それがわかってから徐々に。いつもうまく使えるわけじゃないけど……」

初めは大変だった。カンティーナで酔った客に理不尽にいちゃもんをつけられて、おもわず衝動的に反論したとき、無意識に棚の皿を破裂させたり。突飛すぎて、誰もそれが私によるものだとは気づかなかったわけだが。

──でも、もしフェンロやアナキンと言い合いになって、彼らの近くでものを破裂させたら?

彼らを決して傷つけるわけにはいかない。

それから、なるべく自分の心を冷静に保つことを覚えた私は、知らぬ間に自然とその力を制御できるようになっていた。完全には至らなかったが。

クワイ=ガンは私の説明に頷いた。

「さっきも言った通り、力の正体はフォースと呼ばれる。ジェダイがあやつる力だ。君にも素質がある。アナキンのように……強い素質が」

私は俯いたまま、戸惑いを隠せなかった。

「……どうすればなくせる?」

「なくすのではない。向き合い、制御するものだ。君がそうしてきたように」


 彼は一歩、私の目線に合わせるように腰を落とした。


 「アナキンが勝ち、私たちが無事に発てたら

──コルサントへ来ないか。ジェダイ寺院で、君は力の意味を学べる。アナキンも一緒だ。彼が望めば」

しばらく、答えることができなかった。

タトゥイーンを出る?ここで育ったのに?ここにはシミも、フェンロもいる。つまらないし、貧しいけど、なんとか生きていける土壌にはある。

自由へのわずかな憧れが、なかったわけではない。

それでも、いざそれを選択肢として突きつけられると、憧れだけではなく、強い恐れと戸惑いも感じた。

「行けない。……父がいるし」

私の返答に、彼は思慮深く頷いた。

「わかった、#NAME1#。君の年齢にしては、これは難しい決断になるだろう。だから今すぐ決める必要はない。自分の心に正直になってよく考えるといい」

彼はわたしのために屈んでいた背をすっと戻す。

「アナキンがポッドレースで勝ったあとに、答えをもう一度聞こう」

その声は、熱いタトゥイーンの風の中で、不思議と涼しい泉のように澄んでいた。わたしが静かにうなずくと、頭に男の手が乗せられる。警戒に体を緊張させると、クワイガンは優しく手を引いた。私は握りしめた拳をそっと開き、どきどきと決壊しそうな胸の鼓動を深呼吸でなだめた。

──こうして賭けは成立した。
 賭けられたジェダイの船、アナキンのポッド。そして、レース。それらすべてを包む運命の歯車は、タトゥイーンのふたつの太陽の下で静かに噛み合い始めていた。

(2.賭け次第)

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