青い高架線

1.砂の中の萌芽

彼は私を自分のポッドレーサーが置いてある自宅の敷地に連れて行った。機体はしっかり塗装されていて、たしかに、概ね完成にみえた。アナキンは満面の笑みで、自慢げにポッドレーサーを見せながら言った。

「これだよ!」

私はかがんでまじまじと機体を見つめる。

「へえ…確かにショックアブソーバー調整とエンジン実装は完了してるな……ジャイロスタビライザーももうこれで完成?」

「うん、こんなところかな。もっとカスタマイズできるけど、正直今がバランスの良い完成度なんだ」

「……いいね。やるなアニ」

「当たり前だよ!」

アナキンが得意げに腰に手を置いて胸を張る。私たちがさらに機体について色々話しこんでいると、背後から見知った声が聞こえた。

「#NAME1#、ここにいたんだな」

ふりむくと、そこには私の養父──フェンロがいた。いつものように穏やかに微笑んでいたが、顔にはすこし疲れがみえる。

「やあ、アナキン。ポッドレースの準備は順調そうだな」

「うん、フェンロ。#NAME1#が手伝ってくれたから!」

「なら、あとはシミさんにレース参加の許しをもらうだけだな」

アナキンの得意げで活発な返事にフェンロは微笑み、彼の頭に手を置いて優しく撫でる。シミはアナキンの母親だ。

私は不思議に思って尋ねる。

「フェンロ、なんでここに? 戻るの早いんじゃないか」

 陽はまだ高い。いつもならモス・アイズリーで夜まで粘っているはずなのに。するとフェンロが肩を落とす。

「今日はもうお手上げさ。荷下ろし相手の船が来ないんだ」

「また?最近一体何が……」

「共和国側のパリニア航路が、通商連合の艦隊でふさがれてる。それで商人たちがこぞってハット回りに流れ込んでな。ハット・カルテルは通行料を倍に吊り上げた。払えない船は足止めだ」

私は息をのんだ。通商連合とハット。聞くだけでろくでもない組み合わせだ。

「タトゥイーンは封鎖されてないのに、物資が来ないってこと?」

「そういうことだ。遠くの政治家が混ぜたシチューのまずさを、辺境の私たちが食わされる。

──迷惑な話だが、苦情の問い合わせ口はどこにもないしな」

フェンロは苦笑いをうかべて言った。

「……そっか」

「色々と値段は上がるが、でも……飢えさせはしないから心配するな、#NAME1#」

フェンロの声は優しいけれど、無理に明るさ保っているようだった。なんと声をかければいいのかわからない。フェンロも彼一人の分ならなんとかなるのだろうが、彼は私を養っている。

ありがとう、と言うには足りなかったが、ごめん、と言うにも、自分が情けなく感じた。

すると私とフェンロのやりとりを聞いていたアナキンが、さっきまでの得意げな笑顔を引っ込め、何か考え込むように俯く。

やがて、ぱっと顔を上げる。

「ねえ、フェンロ! 僕がブーンタ・イブで優勝したら、賞金でしばらくのご飯とか、全部まかなえると思うんだ」

子供らしい無邪気さというより、どこか必死な響きがまじっている。いつもなら大げさに胸を張るアナキンだけど、今回は少し前のめりだ。

フェンロは驚いたように目を見開き、それからちいさく声を立てて笑った。そして壁に寄りかかり、腕を組んでアナキンを見る。

「頼もしいな。砂漠のちびっ子パイロットが貧乏な行商人を救ってくれるのか?」

「ちびっ子じゃないよ!」

「そうだな。未来の銀河一のパイロットだ」

フェンロは肩をすくめておどけてみせる。けれど、その目にはアナキンの励ましに感謝がにじんでいた。

アナキンは照れ隠しに目を逸らし、私のほうをちらりと見る。

私も彼に微笑んでから、フェンロに向き直った。

「なら私も、夜のカンティーナのシフト増やす。で、賞金が入ったらうちのカンティーナで盛大に打ち上げしよう」

「うん!僕が優勝カップを持ってきて──みんなでお祝いだ!」

「優勝前提か。心強いことこの上ないね」

フェンロは冗談めかして言いながらも、その笑みにようやく少しだけ余裕が戻ったようだった。

────

二つの太陽といっしょに落ち始め、夕焼けがおとずれる。風が立ち、これから夜は寒くなる。

日中は苦しいほどに暑いのに、夜は凍えるほど冷え込む。砂漠の気候はいつだって人間に容赦などしない。

アナキンは完成間近のポッドをもう一度撫でてから、私に微笑んだ。

「#NAME1#、絶対に勝つから。そしたら、きっとぜんぶうまく行く」

きっと強いから、アナキンはこんなにも彼自身を信じられる。私も彼に微笑み返した。

背丈はまだ私のほうが少しだけ高い。だけどそれも、きっとすぐに変わるのだろう。

アナキンのきらめく青い瞳に映る空は、ずっと遠く広いところへつながっている気がした。

そしてその数スタンダードデイ後。

モス・エスパの荒れた街角に、ヒューマンの男とグンガン人のよそ者が現れる。

彼らとの偶然の邂逅が、アナキンと──ひいては私の運命を大きく変えていくことになるとは、このときの私たちはまだ知る由もなかった。

(1.砂の中の萌芽)

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