青い高架線

ほどけないよ、赤い糸

「あのう、マスター…今日こそ僕のお願いを聞いてくれますよね?」

「……んー。」

「マスターは言いました。『ま、聞く聞く。そのうちね』、『んー。多分1サイクル後くらいに?』...…そして、あの会話のあとから、ちょうど10スタンダードデイですよ!」

「……へー。」

「へー。じゃありませんよ!マスター、聞いてますか?」

むっとふくれっ面の弟子、#NAME1#のパダワンが#NAME1#の前で腕を組んでいた。弟子がさかさまに見える。#NAME1#はというと、ジェダイ寺院の訓練棟で、スパーリングの小休止中、床に仰向けになってデータパッドをいじっていたからだ。

「マスターってば!」

パダワンが耐え切れず、もう一度言った。今度は強めの語気で。

「今日こそ!僕のお願いを聞いてもらいますからね、マスター!」

「…はいはい」

#NAME1#はうんざりした顔で、データパッドから目を離し、弟子にちらりと視線を投げた。……もうこうなったら、てこでも動かないだろう。こんなにも頑固だなんて、自分に似たのか?#NAME1#はため息をついた。

「マスタースカイウォーカーに、シエンの型を教わりたいんです!いいでしょう?だってあなたはマスタースカイウォーカーと仲がいいじゃないですか!」

#NAME1#はデータパッドを床に置いて立ち上がり、すこし黙った。

──仲がいい。さて、どう説明すればいい?

確かに、アナキンと#NAME1#は仲が良い。いや、良かったと言うべきかもしれない。
そう、3サイクル前までは仲が良かった。

なんなら、付き合っていた。必死に隠して。

しかし、任務で離れ離れになることも多く、互いにジェダイという立場からくる罪悪感も#NAME1#にはついて回った。くわえて、アナキンの独占欲と不安定さは、状況をさらにこじらせた。最初から、持続するには無理のある関係だったのだ。

これを自分のパダワンに説明しろと?#NAME1#は内心で頭をかかえた。

別れを切り出して、3サイクル経った。それ以来、言葉を交わしていない。いや、業務連絡を除いて。意図的に#NAME1#がアナキンを避けていた部分もある。だって、どう接したらいいかわからなかった。
──#NAME1#がアナキンにその話を切り出した時、彼にしてみれば突然のことだったようで、納得してもらうのに本当に時間がかかった。というか、まったく納得してくれなかった。だからこそ、#NAME1#が半ば無理やり距離を置くしかなかった。

歩み寄っても、余計こじれるだろうとか、うまく修正しようとすればするほど、もっと悪くなるだろうとか、いや、時間が経てばアナキンも徐々に納得してくれるだろう、という考えのもと……まあ、無責任と言われればそれまでだが、#NAME1#なりにさらに軋轢が広がらないように、時間に任せようとした結果だった。何が正解だったのか、今でもわからない。でも、その話し合いでは、確かに#NAME1#は全く自分の意見を曲げなかったけれど、アナキンに誠実に説明したつもりでもあった。
しかし……。

──「関係の修正のための機会さえくれないのか?」
──「なるほど。それほどまで君が愛してやまないジェダイの掟を選びたいって?」
──「結局骨の髄までジェダイだな。愛なんか知らないってわけだ!」

「くっそー、言いたい放題か!!!」

思わず、隣の柱をガンと蹴飛ばす。

「マ、マスター?」

パダワンが不安そうに見てくる。
#NAME1#は「しまった」とばかりに、すぐに姿勢を正した。
冷静、秩序、平常心。
──ジェダイらしく。いつもどおりに。
ごほん、と咳払いをして、気まずさを払うようにパダワンへ向き直った。

「マスター。約束守ってくれますよね?僕はちゃんと待ちました」

「……」

「マスター?弟子にいいところ見せてくれないんですか?この前の言葉は嘘でしたか?」

「……うう。」

#NAME1#は髪をかき上げてため息をついた。

「……聞くだけ聞いてみる」

#NAME1#はついに白旗を上げた。完全降伏。もうこの押しに勝てる気がしない。何より、切実な弟子の願いに不誠実でい続けるのは罪悪感と疲労が伴う。パダワンには信頼されていたい。パダワンは、文字通りぱあっと顔を明るくして、両手を挙げてぴょんと跳ねた。

「ほんと!?ありがとうございますマスター!!うわー!まさか今日がその日になるなんて!夢みたいだ……!いや夢じゃない!現実!これは現実です、マスター!」

「はいはい。静かに」

「はいっ!」

パダワンは、#NAME1#の言葉にぴたりとその場で背筋を伸ばした。……いやそれでも、口元は笑いをこらえきれてない。正直微妙な心持ちだったけど、パダワンの笑顔には変えられない。#NAME1#はなかなか態度に出さないが、結局いつも彼女の弟子を本当に可愛がっていた。

────────

#NAME1#はアナキンの宿舎の前で、もだもだとしていた。あっちへ行き、こっちへ戻り、ドアの前をぐるぐると歩き回った。

だって、何て言う?
今更どんな顔で?

3サイクル前に、自分から距離を置いた。納得していない彼を、半ば強引に。
それ以来、顔を合わせても一言も交わしていない。「元気?」……いや、この前寺院ですれ違ったとき、少なくとも元気そうには見えなかった。

……もう、こうなったら勢いだ。

#NAME1#は意を決して、音声認識に向かって名を告げた。

「#NAME1#だ。アナキン、いる?」

ドアは自動で開いた。案外、入れてもらえるらしい。足を踏み入れると、アナキンの声が響いた。低く、ぶっきらぼうな声だった。

「…#NAME1#か」

部屋は暗く、ブラインドが閉まっていた。#NAME1#は手探りで照明のスイッチを探し、パチンとつけた。

部屋が青白い光でぼんやりと照らされる。
アナキンはソファに座っていた。目の下の濃いクマ、少し乱れた髪。疲れているのが、一目でわかる。
#NAME1#は後ろ手に腕を組み、視線をさまよわせながら、ためらいがちに口を開いた。

「ひ……久しぶり。どう過ごしてるかと気になって様子を……見にきた」

彼はしばらく黙っていた。

気まずい。#NAME1#はすでに手に汗をかいていた。

アナキンは黙ったまま、#NAME1#に視線を向けた。それから口元に皮肉な笑みを浮かべた。

「どうしてたか、だって?そうだな。ようやく3サイクルぶりに聞いてくれたから答えると、最高だったよ」

その言葉にはあからさまな皮肉が滲んでいた。

「心をズタズタにされたとか、最悪な別れを経験したとかも、見ての通り、全くない。満足か?」

彼はもたれるように背をソファに預け、乱れた髪に手を通した。

「まあいい。君が気にかけてるフリを続けたいなら、構わないさ。ご自由に」

「うぐ……な、何だその言い方。私は心配して、来て、こうして……勇気を……」

#NAME1#は言いかけて、言葉を呑んだ。
アナキンのこういう皮肉を受け流すのが、いつまでたっても苦手だった。衝動的に、昔のように言い返したくなった。でも、今日は喧嘩をするために来たわけじゃない。
#NAME1#は息を吐いて、感情を押し戻した。

アナキンはそんな#NAME1#あからさまに肩をすくめて息をついた。

「勇気、ね。壮大な話だ。で、僕はそれに感動すべき?」

彼はソファから立ち上がり、#NAME1#に近づくと、見下ろすようにそびえ立った。

「今さら来るなんて。この3サイクル、まるで全部何もなかったみたいに僕を避けておいて?…頼むよ#NAME1#。見せかけの心配なんて欲しくない」

「ここまで来て見せかけ呼ばわりか?なら、本物はどういうものなんだ?」

#NAME1#はむっとして口をへの字にした。アナキンは鼻で笑って、身長を合わせるために少し屈み、#NAME1#にぐいっと顔を近づけた。

「さあね。たとえば最初から3ヶ月も僕を避けないってのはどうかな?本当の心配に冷却期間なんか必要か?」

そう言ってアナキンは#NAME1#から顔を離し、苛立たしげに腕を組んで部屋を行き来し始めた。足取りは重く、感情を持て余しているのが見てとれた。

#NAME1#は早口で言い返したかった。しかし、ぐっと口をつぐんでアナキンの怒りを我慢して聞いた。アナキンの言葉に完全に同意できないまでも、思い当たるところがあるのは事実だった。
#NAME1#は小さく息を吐き、言った。

「だって、すぐに友達だ、みたいに振る舞い直すのは難しかった…気まずいし」

アナキンは歩くのを止め、#NAME1#鋭い視線をに向けた。

「気まずい?ああ、それは確かに。わざわざ明白なことを教えてくれて、ありがとう。それで、気まずいにも関わらず、ここに来てくれたわけだ。しかも僕を気にかけてるだって?嬉しいね。でも結局心配じゃない。ただの罪悪感だろ。」

彼は乾いた、皮肉な笑いを漏らした。

こ、こいつ……下手に出れば好き放題言って…!
そう思ったものの、#NAME1#は何も言い返せなかった。アナキンの言うことは、ある意味では正しかったからだ。様子を見にきた、なんていうのはただの入り口だった。パダワンの頼みごとを切り出すための言い訳に過ぎない。

アナキンがどうしてるかなんて無論気にはなっていたが、この機会がなければここに来ることをもっと先送りにしていただろう。
その事実が、心のどこかにずっと引っかかっていた。

本当に心配していたなら、もっと早く来ていたはず。アナキンの言ってることは正しい。なのに今の自分は、心配という名目で、自分のパダワンのお願いを聞いてもらうためという都合を隠してここに立っている。

彼を否定できるほど、自分が正しくないことも知っていた。

「……今日はその話じゃない」

#NAME1#はようやく口を開いた。
アナキンはその声に、何も言わずに少しだけ眉を動かした。#NAME1#はそのまま肩を落としてしぶしぶ言った。

「……パダワンのことだ」

「……パダワン?」

アナキンの目が、わずかに細められた。

「うちのパダワンがお前に指導を受けたいんだそうだ。訓練で見たお前のシエンの型に感動して、それで、たった一度でいいから指導してほしいって。直接頼むのは難しいからって、私がお前に伝えるように頼まれた」

静かに言葉を重ねるうちに、#NAME1#の声も少しずつ落ち着きを取り戻していた。これは弟子と彼女の約束だった。弟子のために動くことは、アナキンへの個人的な感情とは関係ない。
アナキンは、苛立ちの代わりに、怪訝そうな声色と共に口を開いた。

「君のパダワンが…僕に?」

やっと出たその言葉は、どこか呆れの色を帯びていた。
#NAME1#は肩をすくめた。

「ファンらしい」

アナキンはしばらく黙っていた。そのまま、目を伏せ、何かを考えていた。
そして、ほんのわずかに、口元をゆがめた。

「……そうか。可愛い弟子のために、ずっと無視してた僕にわざわざお願いしに来ただけってことか」

声には、皮肉が戻っていた。でもそれは、最初のような刺すようなものではなく、どこか苦味が混ざっていた。#NAME1#はまた、言い返すべきかどうかで迷った。でも、もう言い合いはしたくなかった。

「弟子のために、ってだけじゃない」

そう、つい口をついて出た言葉だった。

「アナキンじゃないと駄目だから」

それは本音だった。アナキンは、#NAME1#を見た。それからすぐに#NAME1#は、ん?と思った。今、なんか自分が誤解を生む言い方をした気がする。いや、つまり#NAME1#のパダワンにとってアナキン直々の指導でないと意味がないって言ったつもりで…。
明らかに補足が必要だったので、すぐに口を開いた。

「あの、アナキン…」

「ひどいな」

彼は小さく笑って、#NAME1#の言葉を遮った。それから、じっと#NAME1#の顔を見つめた。声には苦味がにじみ、押し殺した感情が滲んでいた。

「僕から立ち去って、関係を修復する努力をするために僕の元には来ないのに、弟子から頼まれたら来れるのか」

「それは…ごめん。」

「ごめん?それだけ?」

「えっ」

ぱっと顔を上げると、アナキンの顔にはもう苛立ちも苦味もなかった。その代わり、何かを思いついたように、片方の口角を上げて#NAME1#を見下ろしていた。

「1回きりの訓練と言っても、ちゃんと見返りが必要じゃないか?」

「見返り……」

そう来たか、と内心で#NAME1#は冷や汗をかいた。奢りか?何だ?こういう顔のアナキンは決まってよからぬことを言い出す。

アナキンは一歩#NAME1#に近づき、いつもの得意げな表情を浮かべた。身を乗り出し、目を逸らさず#NAME1#を見つめながら、囁くような声で言った。

「答えが気になる?」

そう言って彼は一歩、さらに近づいた。
息が顔にかかるほどの距離。

「また関係を戻すっていうのはどう?」

アナキンはくすりと笑い、視線を一切外さずにとても近い距離で#NAME1#の顔を見つめ続けた。

沈黙。
からの、爆発。#NAME1#はさささっと後退して、アナキンを避難するように指をさして言った。

「ええええ!お前、恥ずかしくないのかっ!私の可愛いパダワンの願いと引き換えにそんなことを私に強要してまで!ジェダイの風上にも置けない!卑怯者!フェアじゃない!」

彼はさらに一歩踏み出し、#NAME1#は気がつけば壁際まで後退していた。しかし。彼の大きな体は再びゆっくり迫る。部屋が急に狭く感じられた。

「フェア、か。恋愛も戦争にも公平性はない、って言うだろう?君の勉強になったなら良かったよ、#NAME1#。どういたしまして」

「いやいやいや!もっと別な!別な見返りとか!」

「ああ、他のものを期待した?残念だな。僕はそれ以外望まないし、そして僕は欲しいものを手に入れることに慣れてる」

アナキンの背の高く筋肉質な体躯が#NAME1#に押し付けられた。ぎゅっと腰を握られ、アナキンの息が自分の髪にあたるのを#NAME1#は感じた。

「そ、…アナキンっ、ほ、本気で…」

触れ方は次第に強引で、執拗なものへと変わっていった。アナキンの手は#NAME1#の体を辿りながら、まるで自分のものを確かめるようだった。そしてやがて、アナキンの唇が#NAME1#に押し付けられた。

「本気さ」と、彼はキスの合間にくすりと笑って囁いた。

「君はまた僕のものになる。君のパダワンは、弟子想いの優しいマスターに感謝すべきかな」

#NAME1#はアナキンの強引さに抗えず、パダワンへの義務感と、ジェダイコードによる罪悪感と、アナキンに対する微妙な想いの間で、逃げ場を失っていた。

「はあ…、#NAME1#、寝室に行こう…」

アナキンがつぶやいた時、#NAME1#は内心「そこまでいくんかい!」と頭を抱えたくなった。しかし同時に「これでいい…なんか何一つ解決しないまま関係が戻りそうになってるけど…少なくとも弟子の願いが叶う…」とも覚悟を決めていた。もう、なるようになることを祈りはじめた時、声が響いた。

「アナキン?次回の制空任務でのインターセプターのフォーメーションについて話したいんだが、入ってもいいか?」

ドアの向こうから聞こえるのは、オビワンの声だった。アナキンは静かにピタリと動きを止めた。笑顔も消えていた。アナキンにちらりと視線で無言を強要されつつも、#NAME1#もオビワンにはバレたくないので、ゆっくり2度頷いて、アナキンから距離を取った。

「今、行きます。マスター」

アナキンがいつも通りの声でドアに向かって答える。そして#NAME1#に振り返り、欲求不安を押し殺した声で言った。

「……あとでまた話そう」

#NAME1#はぽかんと口を開けた。どうやら首の皮一枚繋がったらしい。いや、結局パダワンの訓練の約束の日取りを取り付けてないから、何も解決していないが。それでも勢いで抱かれるのは回避できたようだった。オビワンは……フォースの加護か何かを持っているのかもしれない。今、#NAME1#はとてつもなくオビワンに平伏したくなった。
アナキンがジェダイローブを羽織って部屋を出ていくのを呆然と#NAME1#は見送りながらも、ほっとしてずるずると壁を背に床に座り込んだ。オビワンと今度会ったら、全身全霊で彼を労わろう。

それから、しばらくしてパダワンが「やっぱり僕にはソレスの型があってるのかもしれない…マスタースカイウォーカーにも教わりたいし、でもマスターケノービにも教わりたい…!」と悩み始めるので、#NAME1#はそれを横目にそのまま悩み続けてこっちの問題を先送りにしてくれ、と願うのであった。

(ほどけないよ、赤い糸)

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